最近読んだ本350
『ルポ 外国人ぎらい:EU・ポピュリズムの現場から見えた日本の未来』、宮下洋一著、PHP新書、2020年。
わたしには「現役を引退したのち、どこか海外へ移って暮らそう」と計画していた時期があります。
けっこう本気で、
戸田智弘著『海外リタイア生活術:豊かな「第二の人生」を楽しむ』、平凡社新書(2001年)
などを参考に、行く先を吟味していました。
が、頼みの綱だった「円」の競争力が落ちてきたり、諸外国の政治・治安が日本の政治・治安と比べ悪すぎたり……、こうした現実に直面し、加齢に伴い少々おっくうにもなってきて、計画は立ち消えています。
そんななかで『外国人ぎらい』を読み、中身が正しいとしたら「うかうか母国を離れ異境に住んだりしてはいけない」と感じました。
近年のヨーロッパが混迷の極致に至りつつある状況を知らされたうえ、アメリカ合衆国に長期滞在していた当時の困難も思いだしたのです。
わたしにとって身に沁(し)みる内容の書物でした。
著者(1976年生まれ)は「24年間、移民としてヨーロッパ社会で暮らしている(pp.7)」かたです。
EUでは、移民と難民が国を破壊するというレトリックが「外国人ぎらい」をさらに増やし(後略)。(pp.5)
いまやこんな傾向が顕著になってきている由で、本書において、EU(欧州連合)のうち、チェコ、オランダ、ドイツ、イタリア、フランス、以上5カ国、それにEU離脱直前だったイギリス、計6カ国の話題を提示されました。
おどろいたのは、チェコでは「『自由と直接民主主義』(SPD)党首で、日系人のトミオ・オカムラ(pp.22)」なる人物が、同地の移民増加を阻止すべく活動している旨の情報です。
オカムラ氏は、
日本語は流暢(りゅうちょう)だ。5歳まで日本で育ち、その後は、18歳から3年間だけ生活したという(後略)。(pp.32)
3年間、東京でゴミ収集の仕事をしたり、映画館でポップコーンを売ったりして生計を立てていた。
だが、差別を受けたことや、生活が困難だったことから、最終的には日本を離れることになったという。プラハに戻り、日本人相手の旅行会社を立ち上げて成功した。その後、自伝の書籍は瞬く間にベストセラーとなり、テレビ出演などでますます有名人になった。彼が政界入りしたのは、40歳の時だった。(pp.33)
わたしはすぐさま、ペルー大統領を務められた日系人アルベルト・フジモリ氏(1938年生まれ)を連想しました。
つづいて、ドイツはどうなっているか。
一部のドイツ人は、400万人とも言われるトルコ系移民や人口の1割を占める外国人とともに生きることに疲れ、時には恐れを抱いている。そこから排斥・偏見・差別といった感情が生まれてくる(後略)。(pp.93)
フランスは?
色白で栗色の髪という、いわゆる日本人がイメージするフランス人がこの国の大半だと、私も住み始めた頃は思っていた。しかし、実際に生活をしてみると、私が拠点としている南仏もそうだが、アラブ系フランス人がこの国の人口の多くを構成していることを知った。(中略)
アジア系で言えば、ベトナム人が圧倒的に多く(後略)。(pp.132)
イタリアでは移民対策よりも難民問題のほうが深刻みたいです。
地中海ルートの難民は、ギリシャ、イタリア、スペインが受け入れの是非に追い込まれ、その他のEU諸国は、見て見ぬ振りをする。(中略)
イタリアでは2015年に15万3964人、2016年に18万1376人の不法入域が確認されている。(pp.106)
著者はあちこちへ取材に赴(おもむ)かれ、移民・難民たちの苦悩や受け入れる側の国民の煩悶を明らかになさいました。
そして、当コラムで引用した文章内に記されている政情が「各国の右派ポピュリスト政党(pp.9)」の台頭を促した、との結論でした。
ポピュリストの語は「大衆迎合主義者」を意味します。
『外国人ぎらい』の最終章では「隠れ移民大国(pp.177)」と呼ばれるわが国の様子も語られました。
読了後、われわれ読者は「日本は今後どうすべきなのか」を考えざるを得ません。
むろん答えは簡単には出ないでしょう。
わたしの意見は(フランスのマリーヌ・ルペン氏のファンではないのですが)、
ルペンは、国境を守り、異なる思想や文化の流入を最小限に抑えることが理想の国家につながると考える。(pp.144)
上記に近接しています。
金原俊輔