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『世界で最も危険な男:「トランプ家の暗部」を姪が告発』、メアリー・トランプ著、小学館、2020年。

著者メアリー・トランプ氏(1965年生まれ、以下、メアリー氏)。

アメリカ合衆国ドナルド・トランプ大統領(1946年生まれ、以下、大統領)の兄の長女で、大統領の姪にあたります。

上掲書は、姪というお立場から大統領を眺め、批判した、一種の暴露本でした。

奇妙かつ冷たい家庭で育ったため、人として健やかに成長できなかった大統領。

小さかったころ弟をいじめたり、長じては下級生をいじめたり、名門ペンシルベニア大学に編入する際に知人に替え玉受験をさせたり、不動産ビジネスで失敗しつづけたり、親族に無関心だったり、自己愛の塊だったり、嘘つきだったり……。

ゴシップ的な話題満載の内容です。

なによりも、メアリー氏は大統領がその重責を果たす資質をまったく有していないと糾弾され、

私は、彼がこの国を破滅へと導くのを許すことはできない。(pp.39)

こんな問題意識で本書を発表なさいました。

メアリー氏は大統領を「ドナルド」と呼びます。

ドナルドには、カリスマ性ともいえる表面的な魅力があり、それがある種の人々を惹きつけた。だが、この魅力が通じないときは、今度は別の「ビジネス戦略」を展開する。かんしゃくをぶつけ、自分が欲するものをよこさない人間に対して「破産させる」とか「破滅させてやる」と言って脅すのだ。(pp.239)

偏った性格を実生活のみならず政治の場においても発揮してしまっているというわけです。

その結果、政界の面々は、

調子を合わせるほうが楽なのだ。ドナルドの首席補佐官たちは、まさしくこの現象の見本である。ジョン・ケリー(元大統領首席補佐官)も、少なくとも一定の時期はそうしていたし、ミック・マルヴァニー(元大統領首席補佐官代行)にいたっては、無条件にその態度を続けていた ― だがそれも、「忠実さ」が足りないとして失脚させられるまでのことだったが。(中略)
ドナルドがスケープゴートを必要としたときに、自分は使い捨ての存在だったと気づくことになる。(pp.190)

ひょっとしたら日本の安倍晋三元首相とて「使い捨て」メンバーに含まれていたのかもしれません。

つぎの例話に進みましょう。

以下の引用に登場する「フレッド」はメアリー氏の祖父です。

メアリー氏の父親が亡くなった直後、祖父の屋敷において、

フレッドとドナルドは、何も変わりはないかのように振る舞った。息子や兄が死んだというのに、いつものように、ニューヨークの政治や取引や女性に関する下卑(げび)た議論をしていたのだ。(pp.223)

やがて、メアリー氏と氏の実兄は祖父がのこした莫大な財産を配分してもらえない状況に直面し、『世界で最も危険な男』の後半テーマは当該件の仕儀が中心となります。

遺産の分けかたには大統領の身勝手な思惑も関与していました。

3番目の話題です。

著者が本書をご執筆中だった当時、すでに新型コロナウイルス感染症はアメリカ国内で脅威となっていました。

この本が出版されるころには、10万人単位のアメリカ人の生命が、ドナルドの不遜(ふそん)で頑迷な無知の祭壇に捧げられた犠牲となっていることだろう。(pp.38)

10万人。

誠に残念ながら、2020年9月下旬、同国のコロナ死者数は20万人を超えてしまいました。

世界で最も裕福であり、最先端の医療を誇っている国家が、他の国々より遥かに大きな被害を計上しているのですから、これはやはり大統領の失政だと言わざるを得ません。

わたしは彼の型に嵌(は)まっていない点が結構好きだったのですが、2020年11月の大統領選挙での再勝利はきびしいかもしれない……。

ところで、メアリー氏は心理学の博士号を有され、臨床心理士のお仕事をなさっています。

当方とおなじで、嬉しくなりました。

彼女の祖父フレッドは、晩年、認知症を患い、

祖父がやって来て尋ねた。「よう、お嬢さん。今日の晩飯はなんだい?」
祖母が答えると祖父は出ていった。だが、少しするとまた戻ってくる ― 「今日の晩飯はなんだい?」 ― 祖母がもう一度答える。祖父は出ていき、戻ってくる。これが10回、12回、15回と繰り返される。(中略)
とうとう彼女は祖父に食ってかかった。「いい加減にして、フレッド、もうやめてちょうだい! さっき教えたでしょう」(pp.278)

わたしは高齢者における上記症状を研究したのち、それを博士論文にまとめました。

ご家族の非常なお疲れを存じあげています。

金原俊輔

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