最近読んだ本387
『トランピストはマスクをしない:コロナとデモでカオスのアメリカ現地報告』、町山智浩著、文藝春秋、2020年。
町山氏(1962年生まれ)はアメリカ合衆国在住の評論家で、同国の状況をユーモラスな文体にて定期的に本邦へ報告してくださっています。
わたしは全報告を読みました。
上掲書はその最新版。
新型コロナウイルス感染症被害と「Black Lives Matter(黒人の命も大事だ)(pp.224)」運動とで揺れに揺れているアメリカ社会の様相を紹介した内容です。
ユーモア度がこれまでの作品より落ちてしまっている気がしましたが、あつかったテーマが笑ってはいけないものですから、仕方がないかもしれません。
ただし、著者が書中随所にてドナルド・トランプ大統領をからかい、反感を隠そうとなさらなかったのには、興ざめしました。
わたし自身、上記アメリカの揺れへの大統領責任は重いと考えているいっぽう、見ていて飽きない人物ですので、2020年大統領選挙での再当選を淡く願っていたのです……。
さて、本書タイトルにある「トランピスト」とは「トランプ支持者」のこと。
たしかに彼ら・彼女らは「マスクをしない」。
ニュースで大統領選光景を観ると、トランプ氏を支持する集会やデモ参加者たちの多数が無マスク状態で、逆に、対立候補のバイデン氏支持の人々はきちんとマスクを着用していたのです。
トランプ支持者にとってマスクしないトランプは「強さ」の象徴だったのだ。(中略)
でも、マスクは本人が感染しないためのものではない。知らないうちに感染した際に周囲にウイルスをばら撒かないためのものだ。マスクをつけないことが意味するのは「おれは怖くない」という強さではなく、「他の人に感染させても気にしない」という傲慢さなのだ。(pp.217)
おっしゃるとおりと感じます。
今回の読書では以下の文章に教示され新しい知識を得ました。
ハリウッドが映画製作をするときに細心のコロナ対策を実施している旨の話につづき、
本当の問題は、どうやって撮るか、ではなく、何を撮るか。世界の映画やドラマ、いや、マンガや小説も含めて、すべての物語が直面しているのは、このパンデミックを描くのか、描かないのか、だ。
主人公が友人と酒場で談笑するだけで観客は思わず「密!」と思ってしまう。恋人とレストランで食事し、公園でベンチに並んで座り、手を握り、キスするシーンを見ても、ロマンチックと思うよりも、「これ、コロナ前の話?」と思ってしまう。(pp.209)
そういう問題があるわけですね。
業界の皆さまには今後ご苦心が待っているのでしょう。
引用内の問題は、西部劇に代表される歴史ドラマが増える、CG撮影が増える、アニメ作品が増えるといった、隙間を衝く動きにつながるかもしれないです。
第二次世界大戦を題材とした戦争映画が増加し、日本が旧に倍して敵国描写を受ける展開になったら不本意ですが……。
ところで、2020年11月現在、大統領選に敗れたはずのトランプ氏は、いろいろなご異議を表明され、ご自分のほうが勝利したと主張、かの国の政局が錯綜しています。
どう決着がつくのか(おもしろい見世物ですので)見のがせません。
それにしても、2020年1月のEU離脱前後、イギリスに大きな混迷が生じました。
ブレグジットとアメリカ大統領選、「投票による民主主義」の規範となってしかるべき2カ国が示した醜態には、がっかりさせられます。
金原俊輔