最近読んだ本538:『鬱屈精神科医、占いにすがる』、春日武彦 著、河出文庫、2022年

精神科医でいらっしゃる春日氏(1951年生まれ)。

旺盛な執筆活動をなさっているかたです。

わたしの場合、以前、

春日武彦 著『ロマンティックな狂気は存在するか:狂気伝説の解体学』、大和書房(1993年)

を読みました。

今回の『鬱屈精神科医~』は、氏が長らく「不安感や不全感や迷い(pp.3)」に悩まされてきたため、とうとう何人かの占い師さんを訪ね、ご自身のことを占ってもらった、そんな内容の随筆です。

高名な人物が占い師を歴訪した他の身辺雑記として、

星新一 著『きまぐれ体験紀行』、角川文庫(2019年)「最近読んだ本226」

がありました。

占いを信じない当方は、星氏に対し少々冷ややかなコメントを書き、春日氏に対しても同様の気もちです。

なぜ信じていないのか?

占いにおいては、心理学で「バーナム効果」と呼ぶ、占いを受ける側がいかなるタイプや境遇であれ「自分に当てはまっている!」と納得するような曖昧(あいまい)で玉虫色の表現が用いられる、こう見ているからです。

『鬱屈精神科医~』より抜粋すれば、

中野ブロードウェイでは二人の女性占い師にみてもらったのだったが、(中略)どうやら現在の家は「凶」となるらしい。病気で死んだりするほどではないものの、努力が実らないといった具合に不幸をもたらすらしい。(pp.168)

「努力が実らない」程度の「不幸」は誰もが現在進行形で経験しており、それで、つい「ああ、たしかに」と思い当たってしまうわけです。「最近読んだ本446」

また、占いは、科学哲学者カール・ポパー(1902~1994)が述べた、反証する手段がない言明は非科学的、という「反証可能性」の問題も孕(はら)んでいます。

一例は、

「わたしにはあなたのオーラが見えるんですけど、エネルギーを暑苦しいくらい放射しています。それが上手くコントロールできていないのかしらね」(pp.40)

証拠の提示がなく、反証もできません……。

以上、春日氏ほどのインテリですので、わたしが指摘したことぐらいとっくにご存じでしょうが、

わたしにとって、占いは必ず当たる(!)のである。もしも占い師の語る未来が間違っていたとしたらそれは占うという行為が運命に作用して変化をもたらした結果であり、だから本当は当たっていたのである。(pp.212)

こうした反証可能性破りそのものの文章を目にすると「もしや、お分りではないのかも」と心配になってしまいます。

本書では、占いの件を除くページにて氏の自分史発掘みたいなお話が延々つづき、ファンである読者だったら喜んだかもしれないいっぽう、わたしは食傷してしまいました。

金原俊輔