最近読んだ本558:『香港少年 燃ゆ』、西谷格 著、小学館、2022年
2019年から2020年にかけて香港で起こった大規模なデモ。
『香港少年~』は、そのデモに参加していた15歳の香港人少年を、わが国出身のルポライター西谷氏(1981年生まれ)が数年間にわたり取材した、政治ノンフィクションかつ人間ノンフィクションです。
類書と異なっている特徴として、
1 デモ隊で重要な役割を果たしている人物を主人公に置いた作品ではない
2 2020年6月「国家安全維持法」が施行されたのち、中国に呑み込まれた香港で、デモは収束した、それ以降の現地の様子も記されている
3 西谷氏が中国の上海市居住であるせいか、他の日本人著者たちより自在な会話を香港の皆さまとなさっており、本の中身に臨場感が出ている
……などを、あげることができるでしょう。
上記のうちの「2」関連として、
香港人も日本人と同じように寝て起きて働いて、三度の食事をし、毎日を懸命に生きている。(中略)そして、そういう「普通の人々」が日々の生活を送るなかで、国安法という政治的イシューに対して深刻に憂慮する余地は、生まれにくい。ネット上で政治的な意見を日々せっせと書き込む人々は、日本でも香港でも決して社会の多数派ではない。国安法は今のところ、「普通の人がギリギリ我慢できる程度の絶妙な悪法」として、なし崩し的に容認されているようだった。(pp.248)
こうした雰囲気を伝えてくださいました。
わたし自身は、どちらかというと、いままで香港デモの切実な面を取りあげた情報にばかり接してきました。
たとえば、
そういうわたしにとって、西谷氏の既述「国安法という政治的イシューに対して深刻に憂慮する余地は、生まれにくい」というご意見は、首を傾げざるを得ないものです。
ただ、むろんわたしなどが知っていない香港の現実があるわけですから、ひとつの重要な指摘ではありました。
以上のほか、(1)当方は西谷氏の執拗な取材の仕方を好まない、(2)氏が焦点を当てている少年にかならずしも人間的魅力が横溢しているわけではない、(3)少年の実名や活動が書かれているため彼の身の安全が心配になってしまう……。
こんな問題点をも有する書籍でした。
金原俊輔