最近読んだ本414

『大相撲40年史:私のテレビ桟敷』、小谷野敦 著、ちくま新書、2021年。

比較文化学者で著述家の小谷野氏(1962年生まれ)が、この40年間の大相撲の流れおよび相撲取り諸氏のエピソードなどについてお書きになりました。

最初に登場した力士は、横綱・輪島(1948~2018)。

最後に登場したのは、前頭筆頭・大栄翔(1993年生まれ)です。

わたしはむかし輪島と貴ノ花(1950~2005)が好きで応援していたし、いまも時間が許せば大相撲のテレビ観戦に興じているので、上掲書をずいぶんおもろく読みました。

貴ノ花の次男である貴乃花(1972年生まれ)の逸話を引用してみましょう。

貴乃花が全勝で走る。だが14日目、武双山との対戦で膝を痛めてしまい、出場は無理かと思われたが、千秋楽、場所入りした。(中略)
貴乃花、渾身の力で武蔵丸を寄り切って優勝を決め、土俵上で鬼の形相を見せた。もっともこれは奥のほうで付け人たちが喜んでいるのを睨んだのだという。(pp.147)

よくご存じです。

書内ところどころ、相撲・角界に関連する豆知識、わが国内外で起こった事件、著者の個人的状況、が書かれていたため、一本調子な内容になってしまう難から逃れました。

それらは、たとえば、

負けた力士は土俵に戻り一礼して去り、勝った力士は戻って行司から勝ち名乗りを受け、懸賞があればのし袋に入った懸賞がそこで渡される。(中略)
一袋に入っているのは3万円で、本来は6万2千円だが、税金と手数料を引いて3万円になる。(pp.66)

元号が平成に変わった。(中略)11月9日、ベルリンの壁が崩壊して東西ドイツの統一に進み、これがソ連の解体へ進む第一歩となった。(pp.78)

1999年 - 武蔵丸横綱昇進  このころ私は、阪大を辞めて東京へ帰るつもりでいた。(中略)
東京の私立大学の公募に4件くらい出したが、うち2件の面接に行った結果、みな落とされた。年初に出した『もてない男』という新書が売れているので、これでいけるかな、とも思っていた。(pp.132)

こうした文章です。

自分自身、本コラムをやや似かよった工夫のもとで執筆していますが、小谷野氏のほうの出来栄えがはるかに上でした……。

わたしは満足しつつ『大相撲40年史』を読み終えました。

ただし、各時代の力士たちの結婚の話題において奥様となるかたがたの旧姓までをもお書きになったことは(のちに離婚したご夫婦の結婚の記述すら同様でした)余計だった、と考えます。

もうひとつ、せっかく比較文化学の専門家が上梓された書物ですので、日本の相撲とブフ(モンゴル)、シルム(朝鮮半島)、レスリング(西洋)、エトセトラ、を比較する一節があっても良かったのではないかと感じました。

最後に、以下は作品への批判ではないものの、大相撲では八百長疑惑が連綿とつづいている模様で、ファンとしては鼻白みます。

金原俊輔

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