最近読んだ本539:『そば学大全:日本と世界のソバ食文化』、俣野敏子 著、講談社学術文庫、2022年
2002年に刊行された書籍が、20年後のこのほど、文庫本になりました。
著者は、京都大学大学院で農学博士号を取得なさった、信州大学名誉教授・俣野氏(1932~2020)。
蕎麦に関して専門家の中の専門家といえる存在でいらしたみたいです。
そんな俣野氏ご執筆の本書をとおし、わたしは多数、知らなかったことを教わり、勘違いしていたことを正してもらいました。
知らなかったこととして代表的だったのは、世界各国におけるいろいろな蕎麦の食べかた。
日本に近いアジアの国々はもちろん、ロシア、ウクライナ、キルギス、ポーランド、スロベニア、フランス、イタリア、などの「ソバ料理(pp.83)」「ソバ食品(pp.95)」が細かに紹介されています。
たとえば、中国の山西省風マカロニ「マオアルドウ(猫の耳たぶ)」は「ソバ粉でつくられる場合が多い(pp.93)」由で、
小さく切った生地を、両手の親指で押さえ、一つずつ前へ押し出し、薄く猫の耳のように巻いた形にして鍋に落とし込む(後略)。(pp.93)
おいしそう。
俣野氏は、
バブル以前はパスタといえばスパゲッティだけだった日本人は、今さまざまなパスタを身近に感じている。ソバも細い麺だけをソバ料理と考えるほど、日本人は狭量ではないはずだろう。(pp.189)
軽い苦言も呈しておられます。
つぎに、わたしが勘違いしていた事項です。
当方、蕎麦は大昔、わが長崎県対馬市に渡来した、したがって対馬こそ日本最古の蕎麦の産地、と想定していました。
ところが、
日本にはすでに縄文時代からソバがあった。出土した(中略)確実なソバの炭化種子といえるものの中で、年代の最も古いものは北海道の渡島のハマナス遺跡で、縄文時代の前期と推定されている。(pp.51)
ふーん……。
それはそうと、『そば学大全』内に、皮肉だなと感じる一節がありました。
江戸時代に蕎麦がもてはやされだしたのは、
「そばが江戸患いに効く」と知り始めたことがその理由と著者は考えている。「江戸患い」とは脚気(かっけ)のことである。(中略)
田舎出の下層庶民たちが屋台のそばを食べて働き、脚気にかからないのを見ながら、町民たちはそばを食べることを覚えたのではないかと考える。(pp.69)
なぜ皮肉に感じたかといえば、明治時代の文豪・陸軍軍医だった森鷗外(1862~1922)には軍隊の脚気対策に大失敗してしまった逸話があり、江戸時代の「下層庶民たち」や「町民たち」が気づいていた脚気予防法を、医者の鷗外は気づかなかった模様……だからです。
脚気はビタミンB1が不足して起こる病気。
著者が156ページ以降で解説していらっしゃるとおり、蕎麦はビタミン類を多量に含んでいるばかりか、タンパク質、アミノ酸、食物繊維、ミネラル(カリウム、マグネシウム、リン、鉄分)も有しているのです。
蕎麦好きなわたしは、年に300食~350食、お蕎麦をたぐっています。
いつとはなく「健康食、美容食、はたまたボケ防止(pp.10)」「便秘や毒性抑制、体内コレステロール量の増加抑制(pp.157)」「血圧を下げ脳溢血や循環器系の疾患を予防(pp.162)」「肌によい(pp.169)」といった恩恵に浴しているのかもしれません。
金原俊輔