最近読んだ本547:『アンネ・フランクの密告者:最新の調査技術が解明する78年目の真実』、ローズマリー・サリヴァン 著、ハーパーコリンズ・ジャパン、2022年

『アンネの日記』で有名な、アンネ・フランク(1929~1945)。

第二次世界大戦中、ナチスの占領下に置かれたオランダで、ユダヤ人の十代の少女が両親、姉、一家と親しくしていた何人かと共に、二年以上のあいだアムステルダムの屋根裏に隠れて暮らしていた。最後はついに密告されて全員が強制収容所送りとなり、のちに生還できたのはアンネの父親オットー・フランクだけだった。(pp.5)

わたしは小学生だったころに子ども用『アンネの日記』を読み、胸を痛めたことをおぼえています。

しかし、60年ちかくが過ぎるなかで次第に印象が薄れてしまい、上掲引用文のうち、(1)彼女たちが屋根裏暮らしをしていた国は(ドイツではなく)オランダだった、(2)密告の結果、ナチスに見つかってしまった、左記2点を失念しておりました。

密告に関しては、戦後、複数回の捜査がおこなわれたらしく、また「多くの人がさまざまな説を提示してきた(pp.141)」そうです。

さらに、アンネたちの「隠れ家(pp.43)」は一般公開されているのですが、

スタッフによると、今日(こんにち)に至るまで、見学者の質問のなかでいちばん多いのは「誰がアンネ・フランクを密告したか?」だという。(pp.141)

こうした状況下、『アンネ・フランクの密告者』は、だれが密告してアンネらを死に追いやったのかを、AIなど現代の最先端テクノロジーを駆使しながら探究した、異色ノンフィクションでした。

探究チームは書中「コールドケース・チーム」なる名称で呼ばれ、コールドケースとは「迷宮入り事件(pp.7)」を意味します。

このチーム、企業のCEO、犯罪学者、歴史学者、データ・サイエンティスト、行動心理学者、元FBI捜査官、戦争犯罪捜査官、法学者、翻訳担当者……にて構成され、「調査はトータルで五年ほど続けられた(pp.150)」。

怪しい情報が寄せられたり見当ちがいの方向へ迷い込んで時間を浪費したりしつつ、みなさん、知恵のかぎり、技術のかぎりを尽くし、じわじわ真相に迫ってゆかれました。

そして、とうとう、

最終的には、複数のタスクがジグソーパズルのピースのように組み合わさって完璧な図柄を描きだした。(pp.157)

ひとりの人物が特定され、チームは十中八九その人こそが密告者である、という結論に達したのです。

人間の性(さが)みたいなものに思いをはせざるを得ない密告事情でした。

『アンネ・フランクの密告者』は、濃い内容の読物。

アンネの一家にかぎらず、当時ヨーロッパに居住していた全ユダヤ人に襲いかかった悲惨な運命を改めて知ることができる、歴史的な意義もきわめて高い作品です。

金原俊輔